ディフェンディング・チャンピオンには、知らずしらずのうちに重圧が、まとわりつく。特に、ナショナルオープンのディフェンディング・チャンピオンになると「背負うものができたから、いまからがいちばんしんどくなってくるよ」と、尊敬する先輩の高橋勝成から祝福? の言葉をもらったという。
「プロゴルファーとしてこれからが地獄だよって言われました。自分でもそうだと思います。それだけ、もう大きな冠ですね。トーナメントで短いのを外してボギーを叩いたらギャラリーに「えっ~」って言われますしね。プライベートでもあんな球打つんだとか思われますしね。自分のゴルフが良いにしろ悪いにしろ、注目度が変わりました」と、寺西は語
った。
高橋勝成からは「地獄の一丁目にようこそ」と、言われたそうである。
2021年、日本シニアオープンの第1日目。まさに寺西にとって、いままでとは違った立場でティイングエリアに立った。この日、10番ホールからのスタート。12番までパープレーが続いた。でも、なにかが違っていた。2回もバーディチャンスを逃していた。続く13番、パー5でバーディを奪ったものの「本来なら、イーグルチャンスだった」ものを、逃してのバーディ。16、17番もバーディとしたが、それでも15番で、1メートル半を外した。
後半の1番から、なんとノーバディ、ノーボギー。スコアカード通りのパープレーで終わった。
「確かに、このところ調子は万全ではないんです。それを象徴していたプレーでした。ショットも悪かったし……」と、反省が先にたった。確かに、前半で3つのバーディを奪ったものの、バーディチャンスをいくつも逃していた。その流れに乗れないプレーが、後半に入って、ショットのブレ幅の大きさに変わっていった。
後半のバーディチャンスを逃したホールは、少なくとも5ホールはある。けれども、1,2メートルの距離だけでなく、最大距離が5メートル、7メートルというものもある。
寺西さんらしくない、と突っ込んで質問すると、本音を吐いた。
「うーん。よそいきのゴルフだったのかも知れない。知らない間に、囲いにいっていたんだと思う」と吐露した。
「ゴルフは、恐ろしいですね」とため息をついた。そして、踵を返すように、きっぱりと「もっとオリジナル(自分の)ゴルフをしないとアカンです。誰かと比べてとか、雑念をすてて、自分とコースとの戦い。格好いいゴルフではなく、自分らしさのゴルフに徹しないとですね」と語った。
「切り替えます!」といった。
夕方、練習グリーンを見ると、寺西が黙々と練習している姿があった。ディフェンディング・チャンピオンのプライドだろう。
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