終わってみれば、圧勝だった。でも、それは結果論である。手嶋多一は、自分の気持を緩めることもなく、過不及の無い緊張感をずっと持ち続けていた。
それを72ホールという長い戦いの中で、貫き通すことほど大変なものはない。第1ラウンドで、手嶋は3アンダーの68をマークして8位タイとしたときに、ふと自分のゴルフを振り返った。反省材料をしっかりと明記したのだ。「ショットで言えば、振れすぎてしまうことによって、正確性が不安定。そのために自分を苦しめるマネージメントを強いられてしまうんです。そういうラフプレーをまずなくそうとしました」と言う手嶋は、前週のコマツ・オープンで痛い目にあっていたからだ。2位という好
位置から、最終日には、3つのOB。2つのダブルボギーで75を叩き自滅していたのである。
自分の想定する範囲内に収まるコントロールされた球筋、ショット。それには、振れ過ぎる傾向のあるショットにリミッターをつけた。さらに難しいグリーンのアンジュレーションやスピードに対して「ピン位置よりも手前に」というイメージを強く持った。
第2ラウンドから最終ラウンドまで、それがうまく作動しての好スコア。通算19アンダー。265ストロークでの優勝につながった。これは、2017年にプラヤド・マークセンが記録した270ストロークを更新する大会優勝最少ストロークとなった。
そして、日本オープン、日本シニアオープンの2つのナショナルオープン保持者の仲間入り(青木功、中嶋常幸、谷口徹が達成)を果たした。
最終日。難しくて苦手だと語っていた2番で6メートルのバーディパットを沈め、さらに4番でも2メートル半のスライスラインを入れて幸先良いスタートを切った。
「実は、昨晩はちゃんと眠れなかったんですよ。泊まっていたホテルも予約いっぱいで甲府のホテルに移ったりして、あー、これで運が逃げちゃうかなとか(笑い)。夜中に数回目が覚めたりして、大丈夫かなって。でも、朝、コースについて練習場でショットしたら、いい感じだったのでいけるかなと」
6番は、3パットのボギー。すぐさま7番でバーディ。9番でもバーディで、アウトを32で折り返した。
すでに2位との差は、たっぷりあった。「でも、スタートで5打差をもっての優勝争いって経験がなかったので、どうしていいのかって思っていました」と言う。
今週は、苦手意識のあるスライスラインが、気持ちいいほどに決まってくれた。「それも、パターを新調したことと、ストローク幅を少し狭くしてしっかりと打てたことだと思います」と言い、総合的に勝てた大きな理由は「久しぶりに頭をしっかりと使ったプレーができたことです」と語った。マネージメントを駆使するゴルフが手嶋は好きだ。そういう頭脳プレーをも強いられるセッティングに、うまくはまったのだろう。
後半は、独壇場だった。11番、13番でバーディをもぎ取って19アンダー。「13番でバーディをとれたことで、ひょっとしたら勝てるかもって思いました」16番をボギーとしたが、最終18番では、しっかりとバーディを奪っての初優勝だった。
72ホールでの優勝の背景は「3日目の10番でのバーディですね。それで力が漲ったというか、スイッチが入ったというか、あれからです」と語った。勝利の方程式の大きなターニングポイントだった。「この優勝で自信を取り戻せた気がします」という手嶋は、翌週のレギュラーツアーに向けて車を走らせた。
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