経験を積むことは素晴らしいことだし、それがゴルフでも人生の中にでも、反映する。けれども、経験を積んで、知りすぎているからこそ、積極性が欠けることもある。かつて倉本昌弘から「例えば、体操の平均台の長さが100メートルあるとする。経験を積むと、失敗したときに、途中で落ちたら痛い目にあうとわかっている。だから、丁寧に、丁寧に、慎重に、慎重に、走りきろうと考えるでしょう。でも、若い人は、一気に走りきってしまう。ほとんどの人は、途中で落ちるけれど、中には、一人だけ、走りきれてしまうということがある。それが、難しいセッティングで、抜き出てくる若手だと思う」という話しを聞いた。蝉川泰果の快進撃には、技量だけでなく、そんな背景がある、のかも知れない。
比嘉一貴は、丁寧に、慎重に回りきろうとしていた。2番、バーディ。悪いスタートではない。「調子は、変わらずだったんです。ただピンの位置が厳しいし、いくつも(バーディ)チャンスはあったんですけど、難しいラインについてしまっていて……。(振り返ると)難しく考えすぎたのかな、とも思うんです。もっと、前向きな気概がないといけないのかなと。やっぱり、ミスを怖がってしまうんですね。ピン(カップ位置)の向こう側を考えてしまうと、打ち切れないとか」と比嘉は、振り返った。ティーショットは、フェアウェイから打つ場面が、多かった。けれども、厳しいホールロケーションのグリーンを攻めるときに「ミスしても逃げ場があるということがないんですよ」と、言う。逃げ場がないときに、最後に頼りになるのは技量と勇気かも知れない。
2番、バーディのあと、4番でボギー。それはダメージではない。むしろ、ナショナルオープンのセッティングでは、苦しみながら、パープレーを基軸に繰り返していくプレーが「王道」なのだという。5番でピン手前4メートルを外して、バーディを逃した。このパッティングの心情は「やはり怖がっている」という気持ちがあったという。10番でボギー。15番でもチャンスを外して「こんなんじゃ、ダメだ」と自分を叱った。それが16、17番のバーディにつながったのだった。
「(これまでのナショナルオープンのセッティング、ゲームの流れは)どちらかというと守りながら攻めるというイメージですよね。そうやって、みんな勝ってきていたのだと思う。でも、いまは、その中に、積極性がなければビッグスコアを出せないのでしょうね。セーフティだけではダメだという気がしてきますよね」と比嘉はいう。首位の蝉川とは、6打差の2位で最終ラウンドを迎える比嘉は「追いかけるしかないですよね。でも、それを意識しすぎて自分のスタイルを変えるのは違うと思うんですよ。自分のゴルフの中で戦っていくしかないですよね。勇気を出して……」と言った。トーナメントは、72ホールで完結する。だから、まだどうなるかわからない。最後の18ホールで、その6打差逆転は、決して不可能ではない。
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