「正直、複雑な気持ちです」というのが、ホールアウト後の比嘉の、小声で発した第一声だった。東北福祉大の後輩である蝉川泰果と最終組で6打差を追ってのスタートであった。前半の9番ホールで蝉川がトリプルボギーを叩いた。ひとつの勝負所。グリーンを外し、ラフに沈んだ蝉川の第3打アプローチショットはいわゆる“達磨落とし”となって、ボールはほとんど動かなかった。同じ状態で第4打も、またもや達磨落としとなり、クラブを持ち替えての第5打でようやくグリーンに乗せたもののピンを大きくオーバーしてダブルボギーパットも決められなかった。比嘉は、表情を変えることなく蝉川のプレーを見守った。そして、チャンスにつけていた自分の
ボールにセットすると、真ん中から決めた。一気に4打を詰めたことで、途中8打まで開いた蝉川との差は、4打になってバックナインに向かうことになった。
そして、14、15番ホールの連続バーディで、追いかける比嘉の方に流れが変わったような雰囲気になった。続く16番でも比嘉のドライバーショットはフェアウェイ中央をとらえた。
蝉川は右ラフからグリーンに乗せただけ。ここで3連続バーディとなれば、もう勝負の行方はわからなくなる。絶好の位置、得意な距離。だが、比嘉は、このショットをピンそばにはつけられなかった。
「あれが、蝉川を追い詰める最後のチャンスだったかも知れないですね。ピッチングウェッジでピンの1~2ヤード左に打ち出せれば、絶好のポジションにつけられるとは思ったのですが、いざアドレスに入るときになって、最悪の結果が閃いてしまったんです。そのために、打ち切れずに右に出してしまいました。本当に悔やまれる1打になってしまいました」
最終的には2打差の2位。「大会前に想定していたスコアを上回ることができたし、4日間アンダーパーだったことには、よくできたと、納得しています。でも、結果的には、もう少しなんとかできたのかな…ということで満足はしていません。蝉川のゴルフが凄く、ロングゲームでのポテンシャルの違い、アグレッシブさに差がありました。悔しいけど、そこは認めなければいけないでしょうね。教えられた気がします」
今季3勝で賞金ランキング1位にいる。ナショナルオープンを制するには、まだ足りないところがある。それは、コースと試合に教えられたこと。それを追求していくのが、これからの課題だといって、インタビューを締めくくった。
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