日本男子ゴルフ界は新潮流のなかにある。その中心にいるのは、今シーズンの賞金ランキングで熾烈な闘いを演じている金谷拓実、中島啓太、蟬川泰果の3選手。そしてDPワールド(欧州)ツアーの「カズー・フランスオープン」で初優勝を果たし、青木功、松山英樹に続く同ツアー3人目の日本選手優勝という快挙を成し遂げた久常涼。日本男子ゴルフ界を牽引している彼らナショナルチームで研鑽を積んだ20代前半の選手たちが、日本オープンゴルフ選手権に臨む。
世界アマで活躍を見せ自信を深めて臨んだ昨年大会で95年ぶり2人目のアマチュア優勝を果たし、今年プロとして大会連覇を狙う蟬川泰果。日本オープンは「物心ついたときから見て
いて、自分にとって特別な大会。日本一を決める最も大きな大会」と、子供の頃からあこがれの舞台であったと明かす。その日本オープンで偉業を達成して今大会に臨むが、「最終ラウンドまでに面白い位置にいられれば」と気負いは見せない。優勝に向けてキーホールを問われると、「どれも平均的に難しいです。ティーショットを曲げるとラフが深いですし。強いていうと、11番のパー4。あのホールは4日間パーでいければ。それと、7番ホール。6番アイアンを使って2打目でグリーンヒット出来たけど、アゲインストになれば3番ウッドでも届かなかった選手がいると聞いている」と応えた。「優勝スコアは2桁に届くか届かないか。自分としては、そのスコアを目指したい」と蟬川は終始、落ち着いた雰囲気を漂わして、冷静に2年連続の偉業に挑戦する。
現在、賞金ランキングのトップに立っている金谷拓実は、2017年からナショナルチームメンバーとして日の丸を背負い、プロ転向までの間、数多くの国際競技に出場してきた。その中で、日本オープンでは2017年大会で2位となるなど優勝まであと一歩というところまで迫ったこともある。「充実感はありましたが、日本オープンという大きな試合でチャンスがあるときに勝たないとなかなか勝てない」とナショナルオープンの厳しさを味うとともに「日本一のトーナメントだと思うので、優勝したいという気持ちが強い」と思いを強くした。だからこそ、「今年、チャンスがあると思うので、自分の力を出し切りたい」と静かに闘志を燃やしている。
中島啓太は、金谷に続いてナショナルチームを背負って世界に挑んでいた。その2人が顔を合わしたのは、2015年の日本アマチュアゴルフ選手権決勝戦。それから3年後の2018年。中島がナショナルチームメンバーとなると、2人は先輩・後輩として、また良きライバルとして濃密な時間を過ごす。松山英樹と金谷の関係のように、中島は金谷の背を追ってきた。そして、今大会の2人は賞金ランキングトップ争いの中で日本オープンを迎える。「日本オープンは特別な大会。ナショナルチームの頃からお世話になっている大会なので一番勝ちたいという気持ちが強い」と、眼光を光らせる。中島にとって特別な大会という言葉とおり、本選手権に向けて先週は身体のコンディションを整えるために費やしたという。そして今年8月からはナショナルオープンのセッティングの特徴の一つである深いラフを見越して「左手の中指、薬指、小指の3本の握力強化」にも取り組んできた。「自分は日本オープンのような我慢大会が好きですが、ASO飯塚でのスコアの伸ばし合いでも勝てたし、どちらでも対応できるようになっている」とプロ転向後の成長も実感している。中島の目標でもある金谷、同年代で先にナショナルオープンを制した蟬川という終生のライバルとの争いとなるかもしれない今大会。日本オープンの新たな名勝負の主役の一人となることが期待される。
日本選手3人目のDPワールドツアー優勝者として凱旋帰国した久常涼。昨年大会はカットに終わったが、フランスオープンチャンピオンとして臨む今大会は「期待が高いと思いますが、頑張ります」と初々しいコメント。久常は、2019年にナショナルチームメンバーとして活動し、ユースオリンピックやネイバーズトロフィーチーム選手権に出場してきた。プロ転向後は、2022年にシードを確定させ、同年にはDPワールドツアーのQTを通過。開幕戦で2位入賞を果たして9月の偉業達成に繋げていく。「ナショナルチームで海外へ連れて行ってもらったので、学んだことも多くありますし、そこで得られるものが大きかった」と海外へ積極的に挑む姿勢の礎を話す久常。会場の茨木カンツリー倶楽部・西コースは、ナショナルチームの先輩であり自身が海外挑戦のロールモデルとしている川村昌弘がプロ初優勝を果した地。「川村さんが勝たれたこのコースを知っておきたいというか、出たかった」と松山英樹とは別のナショナルチームの系譜を感じさせる久常。フランスオープン優勝の勢いのまま一気にナショナルオープンの頂点に立つことができるか。
彼らナショナルチームメンバーが憧れの選手として名前を上げるアダム・スコットが今年も日本オープンに出場する。2年連続7度目の日本オープンに「これまでのコースに比べると真っ直ぐなホールが多い印象で、攻めやすいかな。日本オープンのセッティングは、全米オープンと比較しても難しいと感じている。フェアウェイが狭くてグリーンが硬い」と語り、「今週はフェアウェイキープが鍵を握る。そろそろ勝たないと。自分のゴルフに自信を持っているので、その中で良いプレーを見せたい」と笑顔を見せる。「ナショナルオープンをプレーして勝つということは、自分のプライドを高めてくれる」と、その国を代表するオープン選手権に出場する意義を語る。アダム・スコットのナショナルオープンへの意識と情熱は、新世代の選手たちにも伝わることだろう。「とにかく勝ちたい」柔和な表情を見せつつ、勝負師の光を宿した視線の先には、日本オープン制覇しか見ていない。
昨年大会の再現を目指して臨むアマチュアもいる今大会。その筆頭が、今年の日本アマチュアゴルフ選手権チャンピオンの中野麟太朗だ。「それは、やっぱり意識しちゃいますよね」と語る。初のナショナルオープンは、「ヤーデージも長いし、ラフも深い」と面食らった様子だが、「かえって勇気をもらったというか。自分がやらなければいけないゴルフを見失わないように」と、タスクもクリアになったよう。今大会にはナショナルチームメンバーの岡田晃平、本大志ら12名のアマチュアが出場している。彼らのプレーにも注目だ。
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