「日本オープン」のタイトルは、とりわけエリートゴルファーには特別な価値を持つ。多くのプロが、何はさておきこの試合に照準を合わせ、調整をしてきたはずだ。ところが、第3ラウンドで66ストロークの好スコアをマークし、通算4アンダーパーで前日までの20位タイから3位タイにジャンプアップした片岡尚之は、ちょっと違ったスタンスで臨んでいた。
片岡はこのオフにスウィング改造に取り組んだ。ところが、「春先は(結果が出ず)本当にしんどかったですけど、夏くらいから自分でも納得できるショットが増えてきて、いい感じに、ちょっとずつ良くなりました(7月以降のツアーで2位が2試合)。でも、コーチと相談して、来年に向
けてという感じで、2週間前からまた大きく変えたんです」。
シーズン中、しかもこの日本オープンも含め、ビッグタイトル(高額賞金競技)が始まろうとする最中に!?「どっちにしろ、いつかはやらなければいけない改造ですから。それを実戦のなかで試すことで、どういうミスが出るのか確認できるので、結果的にその方が(自分のものになるのが)早いんです」。今シーズンではなく、将来を見据えての改造に迷いはなかったと口にする。25歳という若さがなせる取り組みなのだろうか。それとも、片岡が持つ時間軸が他とは違うのか。
もちろん、簡単に結実するものではない。改造の主眼は弾道を高く上げることだが、「全然、今日までうまく来ていなかったんですけど」と明かす。実は、スタート前の練習ショットが「本当に調子が悪くて、今日は80打つかな、と思っていました。すべてがバラバラで、ひとつも気持ちよく打てない感じでした。このところ毎日、いや1週間に2~3回はそんな感じです」と苦笑する。
それがスタートするや、「まさか、まさか」(片岡)の連続バーディ。1番(パー4)はフェアウェイから残り173ヤードを7番アイアンで、ピン奥7メートルほどにつけてのバーディ。2番(パー5)は、同じくフェアウェイから3番ウッドで2オンを狙ったショットがグリーン奥にこぼれたが、そこからピンそば1メートルほどに寄せてのバーディ。この展開であれば「もうひとつ」と、アグレッシブに攻めたくなるものだが、「いい流れでスタートできたけど、簡単にボギー、ダブルボギーが出るコースなので。気を抜かずに一打一打に集中しました」。
その後は、一進一退のゴルフが続く。そして迎えた最終18番(パー5)。「17番のボギーでフラストレーションがたまっていたので、18番はとりあえずセカンドショットをピン奥まで飛ばそうと狙ったんですけど、それが意外に吹け上がって、グリーンに届かず、あと2ヤードほど転がったら左の池に入るところでした」。ボールは、ラッキーにも花道に止まる。ピンまでの距離は約12ヤード。ライもアングルも良かった。片岡は58度のウェッジでカップを狙う。結果は、イーグルフィニッシュ。「最後にご褒美がきました」と顔をほころばせる。
トップとは2打差。優勝を狙える位置につけたことで、明日の意気込みを尋ねられたが、片岡の答えは「一打一打に集中して、その結果、優勝できればうれしいんですけど」と特段の熱量は感じられなかった。多くの選手にとって何が何でも手に入れたいタイトルも、いまの片岡にとってはその前にやるべきことがあって、そちらに向ける視線のほうが熱いのだろうか。
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