この茨木カンツリー西コースで日本オープンが開催された直近は、1996年だった。そのときコース攻略法について杉原輝雄の言葉がある。「攻めながら逃げるが鉄則」という金言だ。それをホールアウトした石川遼に、どういう意味か教えてくれる?と聴いてみた。「いや、解らないです(笑)。実に、奥深いですね。でも、僕的に解釈すると、攻めていても引くときは、ササッと引く。そういうゲームの中の切り替えというか、潔さが必要ということではないかと思いますね。これって、言葉では実に簡単なことですけど、高度な技量がなければできないことだし、それは、技術的にも精神的にも、ほんとに高いレベルの中で理解し合えることではないかと思う
」と教えてくれた。コースが単に難しい。その難易度が高いから安全に、丁寧に凡ミスをしないで渡り切るということだけでも、一気に攻めまくって突っ走るということでもない。その微妙な機微が、攻略の奥義なのだろう。
首位と2打差、3位タイにつけた石川遼は、この日、3バーディ・2ボギーでホールアウトして通算4アンダーパー。「まあ、いろいろありましたけど、(相対的に)良かったんじゃないかと思います」と振り返った。「これは仕方ないなっていうこととか、グリーンやピンを狙わないというところの判断をすごく迫られるのがタフなセッティング。好きにどこを狙って何で打つか判断していいので、それを試されるコンディションだと思います」と説明してくれた。
「例えば7番のパー4で、第2打は残り240ヤードあったのですが、右のラフ、しかも木が邪魔している。そこで無理して狙おうと思えば、数パーセントのチャンスはあります。そこで僕は、レイアップを選択し、8番アイアンで打って、第3打は、残り125ヤードほど。結果的に3メートルを沈めてパーにしたんです。でも、内容的には、4.0のパーではなく、限りなく5に近い4.8のパーだったと思います。4 で上がれたら最高過ぎるなっていう 4 だったので、4.8 くらいの 4 というか ゴルフはそういうのが結構あるというか、内容はほぼ5だなっていう4がありえる時はありえるので、良いイメージをしようと思うといくらでもできるというのが面白いなと思います。セカンドの状況も100球打って1球乗るかもしれないですが、それがその場で出るかどうか。それ以外に 100 球に 10 球 は酷いミスが出る確率の方が高いと思うので、そのジャッジを迫られると思います」と石川は語った。
ゴルフには、小数点がない。惜しいパーもラッキーなパーも4は、4である。石川がいうゴルフの内容的には、小数点をつけてもいいことがある。その救われたナイスパーのお陰でゲームの流れが保持できることもあるからだ。
「プレーしていて、これがゴルフだな、と思うことがあります。厳しいセッティング。難しホールロケーションなど、単に難しいというくくりではなく、まさにこれがゴルフだと思えるんですよ。だからナショナルオープンは、面白い」とも言った。
ちなみに1996年大会では、ピーター・テラベイネンが優勝した。最終ラウンドの15番ホール。彼にとって最大のピンチに出くわした。第1打は「ハンディキャップ36のティーショット」と本人が言うように、左へ引っかける100ヤードのミスショット。けれども、そこからがリンクス経験者。第2打、3打ともに9番アイアンで攻めて4.5メートルのパーパットを沈めたのである。彼にとって、汚いパーも、せこいパーも、格好いいパーも、同じパーであることが身に浸みていたのだ。そして、自分が、いまある自分のそれ以上でもそれ以下でもなく、ありのまま、できることを着実にするというゴルフで優勝したのだった。
石川遼のコメントを聴いているうちに、杉原輝雄とテラベイネンのシーンがダブついた。
「明日は、楽しいですね。本当に楽しみです。キャッキャ、キャッキャやる楽しみではないですが、自分の中では胸が躍る、ワクワクだったりという楽しさはすごくありますね。最近なくなってきましたが、日本オープンは特別と昔から思っていましたが、それは難しさが特別というところを感じていました。いろんな厳しいセッティングと言われているトーナメントをやってきた時にゴルフが強い上手い人に求められるものというのが、一番求められる感じがしますね。そういう意味ではこれこそゴルフなのかなとすごく思うところがあります。この試合を勝ちたい特別な思いというよりは、これがゴルフの面白さであったり、 厳しさを教えてくれる大会だなと思います」と石川は言った。その楽しいという言葉の幅広い余韻は、ワクワク感を増幅させる。最終ラウンドは、石川遼解釈の「「攻めながら逃げるが鉄則」のゴルフを見せてほしい。
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