最終ラウンド、晴天のもと会場に詰め掛けたギャラリーの数は7,718人。その一番の「お目当て」は、やはり石川遼だ。最終組の2組前からスタートする石川は昨日まで3日間ともアンダーパーのラウンドで、通算4アンダーパー。第2ラウンドは、ティーショットがOBとなった2つのホールでダブルボギーとするも、そのミスを引きずることなく、終わってみれば1アンダーパーの69にまとめている。「堅調」を印象づける内容で、トップの平本世中を2打差で追撃する展開になった。
石川の手が日本オープンのタイトルに届きかけたのは、プロ転向した古賀ゴルフ・クラブで開催された2008年大会。この年は2位。翌年の武蔵カントリークラブ・
豊岡コースが舞台となった大会も、優勝した小田龍一、今野康晴とのプレーオフに持ち込みながら惜敗して、2位タイ。それ以来の大きなチャンスだけに、ギャラリーの多くが「期待」ではなく、「勝たせてあげたい」という思いでやってきた。その“圧”の強さは、1組前でプレーする岩﨑亜久竜にアウェー感を与えるほどだった
ところが、そんなムードのなか、石川のこの日2プレー目で暗雲が垂れ込める。1番ホール(パー4)のフェアウェイからの第2打が「自分でもびっくりするくらい」右に飛び出してしまったのだ。シャンクか?
「いや、あれはシャンクじゃなくて、アゲインストの強い風に、8番アイアンと9番アイアンの間の距離で、結局8番でハーフショットを打ちにいったんですけど、それが鋭角に入り過ぎたんです」と明かす。結局、このホールをボギー。ギャラリーの間からは、ため息が聞かれる。そして、その後も同じようなミスが続く。「2番(パー5)のティーショット(ドライバー)がド右にいって、セカンドの刻みが右に行って、3打目もメチャ右に行って」と振り返る石川。彼によれば、クラブフェースが「メチャクチャ開いていた」のだ。
7番(パー4)もティーショットが、やはりド右に飛んでボギー。石川は「これは、立て直すのが難しいかなぁ。今日は長い一日になるかも」と、暗澹とした気持ちになっていたという。ところが、「訳のわからないショットが出だして、やばいやばいと確かになったんです。なんでこんな変なところからクラブが降りているんだろうとか。でも、そうした状況のなかで、いや、この位置からこう降ろしていけば絶対にこの(思い描く)球になる、ということを信じてやるうちに、後半は嫌なロケーションでも迷いなく打っていけたのは良かったと思います。修正力でズルズルといかないのが自分の生命線」。自らの修正力を強く実感したのはハーフターン後、依然として強い向かい風が吹く10番、11番、12番ホールだった。特に11番は、第2ラウンドがダブルボギー、第3ラウンドもボギーと苦しんだホール。そこで、前半の「訳のわからないショット」や昨日まで「苦しんだ」ことを頭から消して、良いティーショットを打てたことで、「あぁ直せたんだな。良く戻って来られたな、という思いがありました」と笑顔を見せる。
そして、14番(パー3)では、グリーンエッジまでわずか4ヤードしかないピン左のショートサイドに、リスク覚悟で狙ったショットピンを刺し1メートルほどのところにドスンと落ちてバーディ。16番(パー4)もバーディを奪って通算6アンダーパー。岩﨑に1打差にまで迫った。
しかし、18番(パー5)で、先行する岩﨑が右ラフからの第2打で、圧巻のスーパーショットを放って2オン。そして、バーディとしたところで、石川は万事休す。事実上、勝負は決した。
石川は岩﨑のスーパーショットについて「称えるしかない」と称賛したあと、自身については「このセッティングのなかで、すごいラッキーでしのぎまくってというのではなく、ショットでフェアウェイを捉えたり、パーオンしたりで、4日間通して浮き沈みなく同じようなゴルフができていたかな」と充実を認め、喜ぶ。
実は、競技終了後、取材エリアに現れた石川は目を真っ赤に涙ぐみながら、冒頭「いいゴルフができたという、それだけですかね」と明らかに悔しさを口にした。ところが、記者への応答を重ねるうちに、「それだけですね」に込められた悔しさより、「いいゴルフができた」ことに自信を深め、前向きになる石川遼が強く感じられるようになった。
最後に、終日彼について歩き、応援してくれた大勢のギャラリーへの思いを尋ねられた石川は、「自分が感情的になってしまったのは(感が極まり、涙ぐんだの意)は皆さんに対する思い、というしかないですね。自分の中ではやりきったつもりですが、4日間、自分がこれだけ楽しくできたのは、皆さんのおかげだと思います。大阪は、なんかテンションの高い方が多く、すごく力になりました。ありがとうございます」。
晴れ晴れとした笑顔だった。こんな石川遼である限り、この日の大勢のギャラリーは失望しない。日本オープンの次のチャンスにも、また背中を押してくれるはずだ。
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