チョン インジ。9バーディ・4ボギー!! と、こういうプレーをしたときに、メディアは、猛チャージとか、攻めのゴルフとか書いてしまう。そして、4つのボギーは、攻めた結果の代償と思い込む。事実、スコアカードで読み取れば、誰でも、やっぱりムービングサタデーだから、チャージして実力発揮と小気味良い表現になる。
けれども、チョン インジは、いたって冷静だった。「いや、むしろ第1ラウンド、第2ラウンドが欲張り(張り切り)過ぎましたね。ディフェンディングチャンピオンですし。自分らしいゴルフができていませんでした。いつも心がけていることは、普段どおりにやれば、結果がついてくると思っていますので、今日は、
そういうゴルフができたと思っています。もし、私が攻めのゴルフをしていたならば、18番ホールのようなミスはしません」と、まさしく冷静沈着だ。18番(363ヤード、パー4)で、インジは、2段グリーンの上、しかも段差のスロープから5,6メートルしかないピンの位置に対して、彼女の第2打は、その斜面、あと1、2ヤード先に落ちれば、上の段につけられたという状況で、斜面の変わり目にあたり、そのままボールは転がり戻ってしまい、ピンまで13メートルほどの距離で止まった。インジがいう攻めのゴルフをしたならば、きっとカップに突き刺さるようなショットを打っただろうと推測される。だから、インジは、攻めのゴルフではなかった、と言うのだ。
「18ホールでの9バーディは、過去にも何回かあります。回数は、覚えていませんけどね。そう、試合でないラウンドでは10バーディが最高かな。でも、4つのボギーは、ちょっと頂けないですね。そのボギーは、アプローチミスとか、ボールのライが悪かったとかでのボギーです」と振り返る。昨日、ラウンドを終えて、インタビューを終え、そして40分間のサインをこなすと、練習場に向かった。それはスウィングの悪い部分の修正だった。結局、練習場がクローズするまで(日没ごろ)、ずっと練習場にいた。「主な修正は、アドレス時でスタンスの左右(前後)のバランスの悪さを修正しましたね。それで違和感なく安定感を取り戻せました」と語った。昨日までとは見違える素晴らしいプレー。2日間通算5オーバーパーで終えて不安感があったのではないか、という質問にも「私は、もともとの性格からなのか、過ぎたことは忘れるんですよ。常に、ポジティブな気持ちが強いと思います。もちろん、バーディやボギーで、一喜一憂するでしょう。人間ですから、その喜怒哀楽は、あります。でも、プレーしているときは、その揺さぶられる幅を小さくしたほうがいいと思います。そして前向きに行動することが大切だと思うんですよね」と、自己分析する。
彼女のプレー態度やコメントを聞いていると、そこかしこにインテリジェンスを感じてしまう。「やはりメジャーに勝ったりすると、多くの方々の視線もたくさん浴びますし、なおさら模範的な行動がとれるようになれたらいいな、と思っています」とインジは、語った。その模範とする遙か先には、アーノルド・パーマーの存在があると言った。
「大ファン、ほんとうに尊敬する人で、アマチュア時代から何回か、手紙を出していたんです。そして昨年の全米女子オープンに初優勝したときに、パーマーさんからお手紙を貰いました。そんな縁で、この間のエビアン選手権(9月15〜18日)に優勝したときにも、お手紙を頂いたんです。ですから、すぐに返事を書きました……でも、きっとその手紙を読む前に亡くなられたのだろうと思います。とっても哀しく、ショックでした……」とチョン インジは、瞼を伏せた。誰にでも尊敬され、誰からも愛され、世界中に多くのファンがいて、まさにインジのいうプロゴルファーのあるべき姿を見せてくれた偉大なプロゴルファーだったアーノルド・パーマー。9月25日、87歳でこの世を去ってしまった。チョン インジが、返事を書いた手紙の内容は?と、尋ねると「パーマーさんが、読んでくれていないので、私の心の中に、ずっとしまっておきます」と話してくれた。アーノルド・パーマーを心から尊敬してやまない、そして心からその死去を悼む女子プロゴルファーが、ここにもいる。最終ラウンド、チョン インジの戦う姿勢を、しっかりと見つめていたい。
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