第3ラウンドを終えて首位。最終ラウンド最終組で迎えたアマチュアの長野未祈は、畑岡奈沙とともに中嶋常幸のアカデミーの生徒でもある。中嶋は、生徒たちの応援に3日目かけつけた。そして「本当は来る予定じゃなかった(最終日に)けど、来ちゃいましたよ。最近の子供達は、僕たちの時代と違って、応援がプレッシャーにならないで、むしろ頑張りに変わるんだよね。時代が変わったよね」と言いながら、長野と畑岡のプレーを応援していた。
先に、ホールアウトしたのは、畑岡だった。しかも最終ホールに難しい上からのバーディパットを見事に決めて(この時点では、優勝は決まっていない)のホールアウトだった。「よくやったね」と、もち
ろん祝福していた。
最終組が、18番をホールアウトして、スコアカード提出所にやってくるあたりから、中嶋は、テントの反対側で、じっと待っていた。カバーがぐるりとかけられたテントの中の様子は、まったく解らない。長い時間だった。中嶋は、ずっと沈黙のまま佇み、ときに腕組みをして、神妙な顔をしていた。大きく崩れてしまった長野に、なんと声をかけるのだろう、と思ってみていた。
長野は、大きく崩れた。前半、2番で、ボギー。6番では、ダブルボギー。そして8番でもボギーとし、前半は40だった。後半に入っても、10、13番とボギーを叩き、ようやく、初めてのバーディが16番で獲れた。けれども続く17、18番もボギーとし、この日7オーバーパー。通算2オーバーの10位タイで終えた。
「悔しいです。朝は昨日よりも緊張していなくて、練習場でもショットは良かったんです。ところがスタートしてからは、ちょっと良くなくて、それでも集中は切らさないでいけたんですけど、自分のゴルフが全然できませんでした。疲労はそんなにありませんでした。ものすごい大勢のギャラリーの方々から、頑張ってーって凄い声援を頂いて、嬉しかったですけど、最終ラウンド最終組という中で、スウィングがうまくいかずにスコアを落としてしまいました。でも、ナショナルオープンで、アマチュアの自分が最終ラウンド最終組というものすごい緊張の中でプレーできたことは、いい経験になりましたし、一緒の組の柏原さんの飛距離や難しいところからのリカバリーのパーの上手さなど、とても勉強になりました」
初めての経験。そのプレッシャーの感覚も、きっとこれまでのプレッシャーとは別の種類のものだったのだろう。それが、優勝争い、特に、ナショナルオープンでの優勝争いなんだと、いまは噛み締めているに違いない。
スコアカード提出所から出てきた長野は、もちろん一直線に中嶋のところに駆け寄った。中嶋が、耳元で囁いた。「悔しいだろ。悔しくていいんだよ。まだまだ、これから先がある。きっとこの経験が、いつか役に立つんだよ。すごくいいもの持っているんだからね」と言った。長野の瞼から涙が一気に溢れ出た。充実した、15歳の秋を彼女は迎えた。
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