夕闇が迫ってくる中、いい光景を見た。ひとつは、ホールアウト後の入念なパッティング練習を終えた松山が、サインを求めて残っていたギャラリーの差し出す色紙や帽子、ボールにサインペンを走らせるシーンだ。一列に並んで順番を待つギャラリー数は200人を超えていたように見える。さすがにUSPGAツアーでファンを大切にするトッププロたちの姿勢を目にし続けてきただけのことがある。そう感じさせられる光景であった。
そして、もうひとつ―。松山がせっせとサインペンを走らせる横の練習グリーンでは、黙々とパッティング練習を続ける二人の選手がいた。第3ラウンドに最終組でプレーした李京勲とH・W・リュー両選手だった。
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ップタイでスタートした両選手。リューは、1番でいきなり大トラブルとなった。ティーショットをラフに打ち込み、第2打もラフ、さらに第3打もラフとなかなか脱出できずなかった。ようやく4オンすれば、次には3パットという悪夢が待っていた。トリプルボギーの7となり、通算2アンダーパーから通算1オーバーパーへと大きく後退した。しかし、2日間トップの座をキープしていたリューだ。ただでは転ばなかった。その後は、ラフに入れない本来のゴルフを取り戻し、13番までに4バーディを奪ってスタートホールの大叩きの分を、お釣りがくるだけ取り戻した。終盤で2ボギーがあり、1オーバーパーの71でのホールアウトではあったが、通算では1アンダーパーの5位とアンダーパーグループにとどまった。
一方の李は、3、4番の連続バーディで、この時点で単独トップに躍り出た。昨年と今年、韓国オープンを連覇して、さらに日本オープンと両国のナショナルオープンを制する夢に向かう李は、その後、前をゆく松山英樹に抜かれたものの、2位タイと夢の実現を狙えるポジションをキープした。最終ラウンド、逆転の鍵を握るのは、ショット力とパッティング。ホールアウト後には、二人そろって練習グリーンでこの日のパッティングで違和感のあった部分を修正することに専念していた。間もなく夕闇がすっぽりとコースを包むという刻限になって、松山のサインが終わった。ほぼ同時に、練習グリーンの二人も、調整を切り上げた。逆転への執念に似たものを感じさせた両選手ではあった。
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