まるで二人だけの世界でのマッチプレーのような展開が繰り広げられた。最終組の直接対決となったプラヤド・マークセンと鈴木亨。フロントナインは、ともに4バーディで通算11アンダーパーとスコアを伸ばし合い、この段階で3位以下には大差がついていた。11番では鈴木がバーディを奪い、単独トップに。続く12番(パー4)が、最初のターニングポイントになったのではないか、とマークセンは言った。
「あのホール、先に打った鈴木はグッドショットでフェアウェイをとらえていた。自分はティーショットをスライスさせて木の根元。グリーン方向には打てずに、隣のホールへ脱出させた。3打目は、林の中を低い球で抜けさせて、なんとか
グリーンに乗せた。その間にフェアウェイのいいポジションからグリーンを狙った鈴木の第2打がバンカーにつかまり、4メートルほどに3オン。自分は、長いパーパットを決めて、鈴木は、パーパットをはずした。このホール、自分はボギーになる確率の方が高く、鈴木に有利な流れだったのに、結果は逆になって、自分が、また追いついてしまった」
絶体絶命のピンチからのスーパーパーセーブ。相手に与えた心理的なダメージは、ただの1ストロークではなかっただろう。2つ目のターニングポイントは14番だった。鈴木はフェアウェイからの第2打をグリーン右のラフに。マークセンの2打目は、難しいライからのショットだった。ボールはバンカーの縁、深いラフに止まっていて、足場はバンカーの中。極端な前上がりのライからのショットを強いられた。グリーン左手前のラフに打ち出すのが精いっぱいであった。ここからのアプローチショットは、ピン手前4メートルほど。鈴木のアプローチショットは、それよりもやや近いところに止まった。先に打ったマークセンが決め、鈴木ははずした。これでマークセンが単独トップに立った。
17番でも鈴木がボギーを叩き、マークセンは2打差で最終ホールを迎えることになった。ここでも、この日の両者の戦いを凝縮するように1打毎に有利、不利の立場が入れ替わった。ともに3オンできずに4打目はバンカーから。先に打った鈴木はピン横1メートル。マークセンのショット。ボールはワンバウンドでカップに飛び込んだ。最後は、派手なウィニングショットでの締めくくりであった。
マークセンが日本シニアオープンの優勝を意識したのは、前週のコマツオープンでシーズン2勝目を挙げたときだった。周りから「このままいけば、シニアオープンもお前の優勝だと言われ、自分もその気になった」という。
タイにいる家族とは、ほとんど毎日スカイプで話している。最終ラウンドの朝、「息子が体調を崩しているというので、ちょっと心配。でも、これで優勝の報告ができるから、きっと元気になってくれると思う」。この時ばかりは、戦士から父親の顔になっていた。実は、生後5カ月の末っ子がいる。女の子で、会いたいのだが、会えない。なにしろレギュラーツアーとシニアツアーの掛け持ちで試合が続いている。そして、本人が「1日もプレーを休みたくない」というほどのゴルフ好きである。
日本シニアオープンの翌週は、レギュラーツアーのダイヤモンドカップ、東海クラシックと連戦し、その翌週は日本プロシニア選手権が控えている…といった具合だ。
日本シニアオープンの優勝で、シニアツアーの賞金ランキングも1位になった。「この1位をキープして、11月にはアメリカのチャンピオンズツアーのQTに挑戦し、来年はそちらを中心にしたツアー生活を送りたい」と、夢を大きく広げている。
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