寺西明は、出だしの1番でいきなりボギーを叩いた。普通なら前日にノーボギーの5アンダーパーで回っているので、がっくりと肩を落とすシーンである。
でも、寺西は違っていた。「こんなもんやろ。ボギーは出るコースだし、今日は耐える日になるかな」と思っていた。
確かに、その後「耐えて耐えての連続でした。このままじゃ、80点(スコア)はいくな、という内容でした」と言った。
2番から10番までの9ホールで、1パットのパーで凌いだのが、5ホールあった。チャンスは、ほとんどなかった。寺西にとって「最高の薬。励み」になったのは、11番ホールのバーディだった。下り傾斜の3メートルのスライスライン。ボールで1
個半曲がると読んだ。「それが、強く打ったわけでもなく、自分のタッチで入ってくれたことが、80を叩かなくて済んだ」ターニングポイントとなった。「あのバーディが励みにもなったし、少し冒険してみようかという前向きな気持ちになれました」と語った。
「それもこれもアマチュア時代にこのコースで試合をやらせて貰ったり、厳しいセッティングのコースでプレーさせてくれたことが僕の経験値の中に入っていますので、ほんとに助かっています」という。
「鳴尾が牙をむいたら耐えるしかありません。100年という歴史だけでなく、コースが進化しているのに驚きです」寺西の進化と言うのは、別にコースを改造したりということではなく、コースやグリーンのメンテナンスや木々の伐採などで「なんか明るく感じるんですよね」と声が弾んだ。
通算6アンダーパーで首位の寺西。2日間通算で最下位の選手との差が、なんと36ストローク。この日ワーストスコアは、21オーバーパーの91。けれども、この鳴尾のコースは「全ホール、ボギーと思っても不思議ではないコース」と小山内護が言うように、一度、自分を見失ってしまうと、奈落の底に突き落とされる。
確か、スコットランドのリンクスコース、ターンベリーの5番ホールだったと思う。そのホールの愛称が「フォン・ミー・オート(私を見つけて)」という名前だった。リンクスでプレーしていると、ともすると自分を見失ってしまう。それは過酷な自然とコースとの闘いを表しているものだ。終盤、篠突く雨の中でのプレーという条件が悪いなかで、寺西は、しっかりと自分を見失わずに18ホールを闘い終えた。「6アンダーパーで、2位が1アンダーパー。これはまったくわかりません。20打差ぐらいあれば、勝てる自信はありますけどね(笑)」という寺西の言葉も、このコースでは、納得できる。
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