最終ラウンド最終組での優勝争い。川岸は「できれば、序盤に先制パンチを浴びせて、こちらのペースで試合を進める展開にしたい」という戦略を立てていた。相手は、第1ラウンドからトップをゆく寺西。「いいゴルフをしていたし、ちょっとのことでは動じない安定感があったから、驚かせるようなことをしないと、相手ペースのままで終わってしまいそうだからね」
スタート前の狙いは、いきなり外れてしまった。スタートの1番でいきなりボギーを叩いたのが川岸で、寺西に余裕を与えることになった。前半は寺西が1オーバーパーの36で、川岸は2オーバーパーの37。差を広げられた格好で、本当の勝負になるバックナインに向かう。そこから
も川岸の追撃ムードが点火することはなかった。「追い上げたい気持ちはあっても、ショットが思ったように打てなくて、チャンスも作れない。こっちが先に(逆転を)諦めさせられてしまったね。うーん、楽なゴルフをさせたかな…」
それでも3位は、日本シニアオープンでのベストフィニッシュとなった。「これまでの自分の不出来なゴルフを考えれば、調子の回復度は、期待以上になっている。そういうことがあるのなら、ベストコンディションのゴルフに期待したくなるよね。どっかに飛んで行ってしまうドライバーショットと、カップにかすりもしないパッティング…という状態が続いていたから、戦うって気持ちにもなりにくかった。ようやく、どうにか戦えるゴルフになってきたな…という実感がつかめたのが、本選手権のささやかな収穫だったかな」
確かに、川岸は明るくなった。冗談も飛ばし、周囲を笑わせられるようにもなった。一時の「ゴルフをするのが辛い」という状態からは完全に抜け出し、ラウンド中、心からゴルフを楽しんでいることが伝わってくるようにもなった。思惑外れの最終ラウンドではあったが、4日間を振り返ると、眠りっぱなしだった怪物が目を覚ました気配が、はっきりとうかがえた。
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