7番パー3(197ヤード)。ぺ ソンウの5番アイアンの第1打は“ダンクショット”、ダイレクトにカップインしたかに見えた。テレビ中継も「ホールインワン!」と興奮気味に伝えるスーパーショットだった。
ペ ソンウ自身もグリーンに上がり、ホール内に止まっているボールを見て、「ホールインワン」を確信したという。ボールはホール内側の側面に、半分ほどくい込んだ状態で止まっており、地面より上にあるのは全体の1/5だけ。ボールのほとんどが地面より下に沈んでいたからだ。
良くある、ボールがピン(旗竿)とカップの間に挟まった状態であれば、ピンを揺することでボールを底に落とせるが、そのボールはあまりにも深
く食い込んでいたため取り出しようがなく、またプレーヤーはホールの縁を損傷させるようなことをしてはいけないという認識があったので、彼女は担当のレフェリーを呼ぶことにした。
ところが、到着したレフェリーが告げたのは、「ホールに入ったことにはならない」という、彼女にとっては意外な裁定だった。
直後、NHKのテレビ中継に出演した日本ゴルフ協会のチーフルールズディレクター・市村元氏は、「球がホールの内側の側面にくい込み、その球のすべての部分がパッティンググリーン面より下にない場合、その球はホールに入ったことにならない」と解説。さらに書面で、R&Aの「ゴルフ規則オフィシャルガイド」の定義詳説「ホールに入る」の項に解釈が示されてあると案内。
競技終了後には、このような事例はまったくのレアケースで、長年競技に携わってきた市村氏も実際に見たことはないが、R&Aのルールテストでは必ずといって良いほど出される問題で、ナショナルオープンを担当するレフェリーなら皆、承知していることと明かした。
実際、ペ ソンウのもとに駆け付けたレフェリーも、「ホールインワンにはならない」と即答。続けて、「球をマークして拾い上げ、そのボールマークを修復し、球を元の箇所にリプレースすること。リプレースした球が止まらない場合、再度試し、それでも球が止まらない場合、ホールに近づかず、球が止まる最も近い箇所にリプレースしなければならない」と、その正しい処置を伝えた。
それに対し、ぺ ソンウは「納得できないところがあるので、スコアカード提出所でもう一度確認したい」と告げたうえで、レフェリーの指示通りにプレーを進めた。
だが、その後の11ホールは、さぞや“もやもや”感があったのでは?
「いいえ。私はいいショットを打てましたし、難しい7番でバーディを獲れたことは良かったと思います。7番ホールはもう過ぎたことです。終わってから説明を受ければいいと割り切ってプレーしました」と笑顔。
そして、ラウンド後に、前述の「ゴルフ規則オフィシャルガイド」の「定義詳説」を示され、詳しい説明を受けると、裁定にも納得できたと屈託のない笑顔を見せる。
結局、この日のペ ソンウは5バーディ ・3ボギーの70。トップとは6打差(6位タイ)。優勝のチャンスが途絶えたわけではないが、3位以下は2打差に、彼女を含め、12人がひしめく団子状態。幻の「ホールイン」で手からすり抜けた1打の影響は?
|